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絵画修復事例014.
墨書扁額「壷中天」  
─現状をできる限り残す修復処置─

◉資料の内容

資料名称 : 「壷中天」
制 作 者 : 秋葉省像(あきば しょうぞう)
制 作 年 : 昭和戊辰=1928年、昭和3年
組   成 :紙本揮毫墨跡
装幀様式 :扁額装幀 木製額縁/構造材に木軸格子組子(下骨)

寸 法 1. 修復前の状態
全寸法(額寸法):H460 × W1710 × T25 mm
作品本紙寸法:H333 x W1375 mm
額縁見付(幅)18mm 額縁見込(厚さ)22mm (内見込み16mm)
旧パネル下骨寸法:H429 x W1678~1679 x T16 mm
下骨桟は横に2本、縦に8本 ( 四隅には斜め〼状に桟入り)
下骨の框見付(外周材の幅)左右が18~19mm 天地が17mm 見込(厚さ)16mm
下骨の桟見付(内桟材の幅)11~14mm 見込(厚さ)14mm

寸 法 2. 修復後の状態
修復後全寸法(額寸法):H460 × W1710 × T25 mm
修復後作品本紙寸法:H333 x W1374 mm
額縁見付(幅)18mm 額縁見込(厚さ)22mm (内見込み16mm)
新規パネル下骨寸法:H429 x W1678~1679 x T16 mm
下骨桟は横に3本、縦に10本 (四方寄子)
下骨の框見付(外周材の幅)21mm 見込(厚さ)16mm
下骨の桟見付(内桟材の幅)12mm 見込(厚さ)14.5mm

修復前 修復前背面
修復後 修復後背面
上画像は修復前の状態、下は修復後の状態

 


◉作品の特徴と修復前の状況

本作品は紙本、墨書。右側より『 壺 中 天 』と大きく三文字が揮毫され、左側には昭和戊辰冬 (1928年、昭和3年)湧泉先生鑿、左端に作者サインとして『石噭書』とある。落款として、右端上には縦に細長い関防印、朱文印『神入以和』、左端には作者署 名左脇に四角い白文印『秋葉』と朱文印『石鳴』(=不確定)が押されている。

本作品は扁額装幀されており、本紙は裏打ちを施し、周囲に金属箔を押した紙で細く覆輪をとっ た上、表層に鳥の子紙と思われる紙を貼った額の中央に接着固定してあった。 額は伝統的な扁額の様式となっており、ガラスの装着はない。額縁は杉材と思われる木製。山丸型。塗装せずに白木の状態で装着された模様。額縁は山丸型の釘を縁外周より打ち込んで構造体 (以下パネル、もしくは額パネルと記す)に固定してあった。

縁の内側には、額の主要な構造体となるパネルが組み込まれているが、このパネルは、伝統工法によるもので、パネルの芯材、下骨(以下より下骨と記す)には、細い角材を障子の骨組みのように格子状に組んだものとなっており、基礎加工、下張りとして、4層ほど紙を貼り重ねたものとなっていた。

パネルの裏面表層には細い縞地に草花繋ぎ、楕円型の点線の囲いの中に花と思しき 文様(薔薇か)を型押しした唐紙が貼られていた。

額パネル解体後の発見として、下骨には杉材と思われる細い角材が使われ、横(長辺)に2本、縦 (短辺)に8本の桟が入っていた。この下骨の特徴として、下骨四隅の空間には補強のためか〼状に斜めに角材が入れてあり、横桟には中央あたりに計2カ所(空間2升目分)、片端に2箇所(1升分)框(外周 枠材)に使っている材料と同様な、やや太い角材を添えて、木ネジや釘などで固定(全て錆付き、 周囲が変色していた)、補強されているような箇所があったが、観察を進めると、同部には長辺の桟が途切れており、桟材を継ぎ足す様な形で加工がされていることが判明した。

古い下骨
錆びた釘
新しい下骨
左は古い下骨(額パネルの芯材)、右は新しく制作したもの。新しい下骨は桟の数を増やし、材料も太くして強度を上げた。旧構造材は材料が細く脆弱で、框には臍(細長い穴)を開けた縁材と思われる材料を流用し、角材を途中でつないだり、つないだ部分への応急的な補強がされていた。補強部に打ち込まれた釘やネジは錆化が進み、およそ固定する役目をなしていなかった。

 


加えて、下骨外周枠となる框材の内側には、等間隔に細い線状の臍穴が作られていることがわかった、この形状の臍穴については、伝統的な工法により屏風や襖の縁を装着する際に用いられてきた『折れ合い釘』と呼ばれる L 字型の釘(隠し釘、縁の表面には釘が露出しない)を挿入するための溝と思われる。 以上から、この額の制作当時には、何らかの理由により、良質で十分な長さの木材を入手することができなかったか、下骨周囲の框材については襖や屏風の縁材料を加工して利用した模様であり、桟材についても、その細さやマス目、空間の大きさから、古い障子を加工、再利用したものと思われる。

パネルの下張りには、繊維屑の多い紙が用いられ、下張り紙はいずれも変色、劣化が著しく、不用意に手を触れると簡単に崩れる様な状態となっており、非常に脆くなっていた。

この額には作品を保護するガラスの装着もなく、長期間外界に曝されてきた模様(扁額の特性か ら、長く家屋の欄間にかけられて放置されていたのだろう)であり、表裏共に光によるものと思 われる変色、退色が著しく、これまでの利用、取扱時の事故によるものか、表裏共に何かで突い たような穴や裂傷、表装材料の欠損など認められた。 本紙の表面には部分的に微細な凹凸や肌荒れが生じ、紙の表面が部分的に崩れかけているような 箇所が見受けられ、墨書、揮毫部分についても著しく定着力が低下し、表面の墨が粉状化しており、ここに誤って接触したか、何かでこすったような跡があり、右端『壺』の文字周囲に墨の移 動、転移を認めた。 墨跡部分の周囲には、墨の膠成分であろうか、輪ジミのような変色(やや濃い色を呈している) が生じていた。

裏面に貼られた唐紙の損壊は激しく、およそ左右先端までににわたる大きな裂傷と剥離、大きな欠損 (材料の部分消失)も生じていた。

 

◉修復処置の方針

本作品を所有、管理する施設の希望により、本作品については装幀部分を含めて、現在残存している材料 素材、姿形をできる限り保全することとし、なおかつ、より長期的な保存管理と利用が少しでも 容易にできるよう、以下の処置を行った。

 

◉解装、額表面の作品と裏面唐紙の分離

前清掃としてケミカルスポンジ、毛の柔らかな刷毛を使い、付着していた塵埃等を慎重かつ丁寧に 払いとった。

墨の移動箇所 移動した墨の除去後
『壷』の文字の右下部分。墨の定着力が失われ、粉浄化した墨が周囲に散っていた。右画像は移動、付着した墨を取り除いた状態。

 

額縁を取り外すため、いったん額全体を厚手の障子紙で包んで養生し、額縁外周に打ち込まれた釘の頭に釘締めと金槌を使って軽く打撃を与え(古典的な方法てあるが、釘の周囲に固着した錆 を落とす効果がある)た。この後、釘頭の根元に先の細いニッパーの刃先を滑り込ませて釘元をしっかりと掴み、縁とニッパーの間に厚手のペーパーマットを敷いて梃子を使う要領で少しずつ釘を引き抜き、釘頭部が露出した所で先の細いラジをペンチでしっかりとつかみ、慎重に引き抜いた。

とくに釘の頭部が錆びついて崩れてしまったような箇所については、彫刻刀を使って釘頭周辺を必要最小限切削して釘を露出させ、ラジオペンチなど使って引き抜いた。

縁を固定してあった14本の釘(長辺に5、短辺に2箇所)は全て錆びついており、1本は中間あたり で分断した(下骨框材中に残留した)。取り外した額縁は、額縁四隅の接合部の接着力を失っており、四辺が分離した状態となった。

額パネルの外周と縁の隙間に溜まっていた埃を払い、パネルの側面にのりしろとして折り曲げら れた表裏の表装材をエタノールと純水の混合液で濡らしてしばらく待ち、古い糊が緩んだところを 見計らい、のりしろ部分を全て剥がした 。

先に損壊の少ない額の表側、作品が接着されている周囲表装材料を少しずつパネルから持ち上げ るようにし、下層の下張り紙をペインティングナイフなど用いて少しずつ下骨から切り離し、慎重 に分離した。損壊の大きかった裏側についても表側と同じようにして表層に貼られていた唐紙をパネルより分 離した。

 

◉裏面唐紙の修復処置

額パネル裏面に貼られていた唐紙は額パネルから分離したのち、内側に接着していた下張り紙を 乾燥した状態でできるだけ取り除いた。

背面唐紙の分離 剥離した断片
左画像は裏面に張られていた唐紙を構造材から分離した直後の様子。右画像は残されていた唐紙の断片

 

洗浄前処置としてエタノールを加えた純水で浸潤させて後、純水をスプレーして含ませてしばらく置き、吸い取り紙を使って汚れの溶け出した水分を吸収することを2回ほど繰り返して行い、続けて水酸化カルシウムを加えてアルカリ化した純水(pH8程度)で十分に濡らしてしばらく置き、 溶け出した汚れを表裏に密着させた吸い取り紙に吸収させた。

劣化した唐紙の直接的安定化処置として、また、唐紙に型押し印刷された模様の定着補強として、純水で溶解、希釈したメチルセルロースを表面から噴霧器を使って塗布、含浸させた。

額の裏面に貼られていた唐紙には欠損した箇所が多かったため、和紙にて補填を行うこととし、 残存している部分との色調の差が大きくならないように、用意した紙に事前に染色を行なった。裂傷していた部分、剥離分離していた部分を確認できる限り元の位置に戻して整え、欠損部には先に染色した紙を補填した。

唐紙の間接的強化処置として薄美濃紙と正麩糊を使って裏打ちを行い、仮張に固定して乾燥させた。先の裏打ち後、1週間ほど乾燥期間を置いて、唐紙を仮張より取り外し、正麩糊と美須紙にて増し 裏打ちを行なった。この紙は白土、胡粉が混合された紙で、弱アルカリ性となっており、唐紙の 再酸性化の抑制効果を期待して使用した。

 

◉表面作品、表装材(台紙)の修復処置

額パネルより台紙ごと分離した作品は、以後の処置に備え、裂傷や欠損した箇所に薄手の和紙と メチルセルロース を用いた養生を行なった。

定着が不安定となっていた墨跡部分に膠水(兎膠2パーセント程度)をエアブラシを使って数回塗布し、定着補強とした。

作品の接着していた台紙、表装材料の背面に接着していた古い下張り紙を乾燥した状態のまま出来るだけ取り除き、裏面唐紙同様に純水にて洗浄の後、さらに水酸化カルシウムを加えてアルカリ化した純水(pH8~9程度)を表裏からスプレーし、溶け出した汚れを表裏に密着させた吸い取り紙に吸収させた。

表打ち
 
左画像は表打ち、裏面の唐紙を養生した状態。右画像は作業中下に敷いた吸い取り紙に汚染物質を吸収させたもの

 

なお本紙の処置については、本紙と本紙周囲に接合された台紙の質の違いから、分離をした場合には洗浄などによって伸縮差が生じる可能性があること、多少なりとも作品本紙と台紙の大きさが変わり元の位置に戻せなくなる可能性があったため、さらに本紙も台紙も著しく劣化、脆弱化しており、分離により損壊が拡大する可能性も考えられたことから、今回の処置においては台紙から作品を取り外すことは控え、作品と台紙を一体として処置をすることとした。

洗浄後はしばらく自然に乾燥させ、乾燥途中、湿った状態で残存していた下張り紙や古い裏打ち紙などを可能な限り取り除いた。

表面が肌荒れしていた本紙と本紙周囲に取り付けられた台紙の安定化処置として、純水で溶解、希 釈したメチルセルロース を表面からスプレー、含浸させた。

作品本紙、台紙の裂傷箇所を改めて整えて、欠損部分には背面から染色した和紙を補い、全体を 正麩糊と薄美濃紙を使って裏打ちし、仮貼りに張り込んで乾燥させた。

先の裏打ち後1週間ほど乾燥期間を置いて、本紙、台紙を仮張より取り外し、正麩糊と美須紙にて増し裏打ちを行なった。裏打ち後は仮張に張り込んで乾燥させた。

 

◉新規額パネルの製作(下骨の交換)

作品と裏面の唐紙を分離したパネルの下骨(芯材)は、当初再利用するものとして古い下張り紙をはがし取り、さらにサンドペーパーを用いて固着している下張り紙や接着剤を綺麗に取り除くと、先述の通り、この下骨材は継ぎ足しや他材料を寄せ集め、組み合わせたものとなっていることか判明した。
この下骨を細かく観察してゆくと、接合部分の一部には釘や木ネジが利用されており、釘頭部や先端が桟材から突き出て露出していた箇所は錆び化が進み、同部分は触れるだけで崩れてしまうような状態となり、すでに固定効果もなくなっていた。
いくつかの材料をつなぎ合わせた桟は、経年による木材の収縮による影響もあってか、わずかながら接合部の先端が表裏に飛び出したり、格子の組み合わせ部分が 緩んでいるような箇所も散見され、さらには下骨周囲の框材には細長い溝が彫られているなど、本来は最も強度を上げなければならない箇所に強度を下げるような加工が施された材料が使われており、極めて脆弱なものとなっていた。

今回の修復処置にあたっては、クライアントとなる施設の希望により、できる限り元あった材料を使うよう作業を進めることを目標としていたが、当初の予想をはるかにこえて、この下骨には問題が多く、構造的に極めて脆弱であったことから、この下骨は額の主要な構造体となり、修復後の作品を支える大切な土台となることから、修復処置後の保存性、管理性、取り扱い性に大きく影響するものと判断し、相談の上、額下骨については新しく作ることとし、以下の工程で新たな額パネルを製作した。

新しい下骨は岡山産杉材、白太材を使用し、長編に桟を3本、短辺に10本ほど入れて強度を上げたものとした。なお下骨四隅は升目、格子の空間を小さくした四方寄子づくりとした。

正麩糊と手漉きの石州和紙を用い、第一層下張り、骨紙貼り(別称:骨縛り)を行なった。先の下張りが十分に乾いたところで、第二層目の下張り、間似合紙てによる胴張りを行った。

胴張りの後は1週間ほど起き、石州和紙による下張り第三層蓑貼り(二重)、第四層蓑押さえを行い、1週間ほど 自然乾燥させた。

第5および第6層下張りとして、石州和紙を使って下受け貼り、上受け貼りを施し、第7層、最終下張り(清張り)として、表裏に美須紙を貼った。

先に行った下張りの十分な乾燥を待って、修復した本紙(台紙)と唐紙を額パネルに固定した。欠損部へ補填した和紙の調整として、Windsor&Newton社製の水彩絵の具を使って補助的な彩色を行なった。


◉額縁の清掃と調整、再装着

分離した額縁は刷毛で埃を払い、練り消しゴムや字消し用の消しゴムを利用して清掃の上、虫糞など付着物を刃物やピンセットを使っで物理的に除去し、表面が荒れている部分やささくれが生じている箇所は400~ 600番程度のサンドペーパーを使い、撫でる様にして均した。

額縁の左側には針でつついた様な傷が゙数多くあり、さらに左下角あたりには大きな欠損があったため、アクリル樹脂と顔料を混合したパテを充填し、固化後周囲のレベ ルに合わせて刃物て切削、整形調整した。

額縁を固定するために打ち込まれていた釘の錆化により、釘の打ち込まれていた周囲が変色した り、木材が変質し、もろくなっていた場所は、彫刻刀など使って必要最小限切削、除去し、同部 には周囲をマスキングテープで養生したのち、アクリル樹脂と顔料を混合したパテを充填し、十分 に乾燥、固化した後、周囲のレベルに合わせて刃物で切削、整形調整した。

修理、調整した額縁を、作品、唐紙を固定した額パネルに取り付け、展示用の吊り金具を裏面に取り付けて額装を完了した。縁の取り付け方法については、歴史資料館と相談の上、装着時に打撃、衝撃を与える必要のある釘の使用は避け、後に取り外しが必要となった際にも、多少なりとも脱着が容易になることから、もとあった釘穴の位置にごく細い木ネジを使い固定した。

 

【作品や資料の老いを受け入れる修復処置】

ここ数年の間で、とくに公共機関を中心に『現状を出来るだけ維持したい』『今ある姿形を残したい』という要望が増えてきた。

現代の文化財修復の理論として、作品の原初の姿をいたずらいに追い求めるのではなく、その作品が生きてきた時間の果てにまとった姿を、例えばそれが傷跡であっても、科学的に劣化という変質や悪化であったとしても、歴史の証明として残そうという考え方がある。
しかし、遥か数百年余りの歳月を経て、光や大気に晒され、人の利用により消耗し、傷ついた作品をさらに長く保たせるということは技術的にもまた難しい。なんとか手を施しても、老朽化したものを元に戻すことは出来ないし、利用、管理する人たちにも、処置の後も劣化した作品を取り扱うという理解に加えて、それなりに負担も大きくなることを覚悟する必要もあると思う。
老朽化、腐朽化した材料を再利用するとなれば、どれだけ強化したとしても、その寿命、耐用年数はなお短いだろう。

今回修復した資料については、現在の額装が所有者であった井深梶之助自らが近隣の表具店に依頼したものであるという記録がが残っており、井深が大変気に入ったという文書記録もあるそうで、この作品を管理する施設の研究員、スタッフらには、当時、井深の愛でていた物を、今日、同じ姿で観ることがでることが嬉しいと、修復結果にも喜んでいただけたのは幸甚である。

今回は辛くも見た目の姿形はほとんど残すことが出来たが、以上の報告の通り、内部の骨組みは新しいものに交換して、古い下骨は別途資料として保管されることになった。
今回の様な修復処置を施すためには、作品上にも、それを所有管理する人たちにも、いくつかの条件を整えなければならず、私はここで、こういった処置方法を全てのケースにに勧めるものではないが、貴重な絵画、書画の修復方法の一例として、現在の状態を出来る限り残す処置方法として紹介したい。

 

【純水とエタノールによる浸潤】
水はその表面張力の大きさから、密度の高い、厚手の画用紙などには浸透しにくい(画用紙上で水が玉のようになって なかなか浸透しない)。アルコールは表面張力を下げる効果があり、水にもよく溶けることから、アルコールを溶かした水を使うと、厚い紙でも素早く深部まで水分が浸透する。洗浄や漂泊作業の直前にアルコール水溶液で濡らしておけば、もともと水は分子間の引力が強いため、この水が呼び水となり、より効果的な処置ができるようになる。

【水酸化カルシウム】
今回に用いた水酸化カルシウムはアルカリ性剤であり、紙中に生成した酸を中和させる働きがあると共に、紙中に残存させることで、再度の酸性化、酸性化進行を抑制する。水酸化カルシウムの中和作用、酸性化の抑制作用は他のアルカリ剤(マグネシウム、バリウムなど)から比べると弱いとされているが、様々な色材が使われた絵画作品に対しては、 絵の具への変色作用が少ないとされていることから利用している。
紙の漂白に際しては、その紙が酸性化している場合、事前にアルカリ水で洗浄、中和処理しておく事で漂白効率が上がり、より少ない漂白剤、短い反応時間で効果を揚げる事が出来る。

【メチルセルロース 】
メチルセルロース は︎︎︎︎︎︎︎︎紙の原料と同じく、植物の繊維を原料としてセルロースを抽出したのち、アルカリ処置、塩化メチ ルとの反応により製造される。一般に増粘剤として食品の加工や医薬品などにも利用されている比較的に安全性の高いもの。文 化財修復の現場では紙を支持体とする資料や絵画の接着剤、強化、安定化剤として利用されている。今回は劣化した画用紙に含浸させ流ことで、紙繊維間の結合力を高め、強化、安定化させることを目的として使用した。同時に利用した 水酸化カルシウムは、紙が再酸性化することを抑制する効果がある。

 

 

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