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『アクリル絵の具』
1901年、ドイツの科学者オットー・レームはアクリル酸の誘導体からガラスに変わる透明板、接着剤、塗料材料など広い用途の合成樹脂が出来ることを発明した。この後、実用化はなかなか進まなかったが、この樹脂を使った強化ガラスが開発されると需要が広がり、科学技術の進歩により、比較的安価に水溶性エマルション型アクリル絵の具が開発されると、1960年代になって当時新進気鋭の芸術家達に利用される様になる。ロイ=リキテンシュタインに代表される現代芸術家達は、均一で、ムラなく描画が出来、即乾性に優れるため、想像したイメージを短時間で表現することが出来、塗り重ねた絵の具が混じりあわない性質にも着目したという。
修復の現場では耐候性が強く、比較的長期的に安定が望めるため、当工房では希釈して補修紙や補修用裂地の染色に利用するなどしている。固化すると除去し難いことから、作品に対しては直接的な利用はしない。
現在は様々なアクリル樹脂画材が販売され、より多様な絵画表現が出来る様になっているが、それらの作品に対しての修復例は少なく、修復方法、修復技術も未だに発展途上にあるといってよいだろう。
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『水彩絵の具』
市販されている水彩絵の具の多くは、アラビアゴムを接着剤として、保水剤としてグリセリンが混入されている。水彩絵の具は、このグリセリンを混入しておくことで保水性が増し、長期間チューブの中で固まらず、水を加えることでいつでも簡単に溶かして使用することが出来る。
水彩絵の具には、不透明絵(グワッシュ)の具と透明絵の具の2種類があり、大きな品質の違いはないが、透明水彩絵の具と呼ばれる絵の具は、水で薄めて使うことを前提としており、接着成分であるアラビアガムを多めに混入し(そうしないと絵の具がしっかり定着しない)、不透明のタイプはアラビアゴムの混合比率を少なくし、グリセリンの代わりにより保水力の高いエチレングリコールなどを混入して、顔料の量も多くしてある(要するに顔料密度が高い)。ちなみに、小学校などで利用されるのは不透明タイプの物が多いそうだ。
いずれの水彩絵の具も、高価なものは天然顔料を原材料としていて、発色性、耐候性もよい。水を加えることで溶かすことが出来るという可逆性を持っているので,絵画の修復現場で利用することが多いが、作品本紙(画用、画布)に直接利用することはない。水で溶ける絵の具も、画用紙や画布の繊維の中に深く入り込んだ絵の具は取り除くことが出来なくなる。
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『パステル/クレヨン/色鉛筆』
顔料にワックス(ろう)などを混入したものと、およそ顔料のみを固めたものがあり、 同じような材料を細く棒状に整形して木材に挟んだものが色鉛筆となる。
パステルタイプのものはトラガカントゴムなど、極少量の添加剤を練り合わせるなどして、棒状に固めたもの。混ぜ物が少ないこともあって、比較的に発色も良いが、接着成分が入っていないので、それ自体が固化、固着することは無く、画用紙や画布の『凹凸に引っ掛かる』ようにして定着させるため剥落しやすく、絵の具を長期間安定、保持させるためには、完成後に絵画表面より定着剤をスプレーするなどして、絵の具の固定力を高める必要もある。パステルを使用した絵画は額装幀の際、樹脂製ガラスを装着すると、静電気によりわずかに顔料が吸着されてしまうこともあるので注意が必要。
ワックスなどを含まないタイプのパステルは、使用後も固化、固着しないため、練り消しゴムなどを使って取り除くことも出来ることから、絵画の修復にも利用することが可能であるが、水彩絵の具と同様に、あくまで限定した使用となる。
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『顔料(絵の具のもと)』
絵の具は独特の色をもつ鉱物を砕き、微粉末にしたものを主原料とし、この顔料を固め、画布や画用紙に定着させるための樹脂、接着剤=展色剤【てんしょくざい】を混ぜてつくられたもの。鉱物の中にはラピズラズリなど高価な鉱石もあり、近年は陶器の釉薬の様なものをつかって人工的につくった顔料も多い。
絵の具は顔料に加える接着成分=展色剤により名前が変わる。油絵の具は顔料にあまに油(リンシードオイル)やけし油(ポピーオイル)など、空気中の酸素を吸収して化学反応で固化する(キッチンで使う油も同じ理由から固まる)油=乾性油【かんせいゆ】を混ぜたもの。
日本画に利用する岩絵の具などと呼ばれるものは、動物の骨や皮から抽出、精製した膠【にかわ】を混ぜたもの、前記の水彩絵の具はアラビアガムを混入してある。
祐松堂では既製の絵の具を使用するほか、様々な顔料を用意し、用途に合わせてまた様々な樹脂を混合して利用している。
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