祐松堂商標絵画と美術品の保存修復 祐 松 堂               《サイトマップ》

・Home ・ご案内 ・保存修復の世界 ・絵画修復事例 ・参考書籍 ・コラム ・お問い合わせ

 

◎修復現場におけるデジタルカメラの利用

はじめに

私達修復家にとって、取り扱う作品や資料の写真記録を撮っておく事は重要である。写真を撮るのは、修復処置前後の状態を確認できるようにしておくことが主な目的であるが、この記録は将来、再び修理が必要となった際にも、管理者所有者にとって有効な情報となるだろうし、この情報により、次の修復処置者もより安全に処置を進めることが出来るかと思う。とくに写真記録は、私達のような専門家以外の人々にとっても、視認性に富んだ情報として、有効な記録方法である。

 

写真記録から画像記録へ

公共の美術館、博物館、資料館や大学の研究室、図書館などでは、写真記録についても、デジタル化した画像記録の利用がスタンダードになってきた。昨今は、フィルム式写真記録と区別するためか、カメラで撮った図像を写真とは呼ばず、画像と呼ぶことも多くなった。
デジタル画像は汎用性に富み、ネガををつくり、プリントした後でないと撮影した図像の状態が確認できないフィルムカメラと違って、カメラのモニターやコンピューターにつないだ大きな画面で、すぐにその場で確認出来るのも大きな魅力であり、現像やプリントの費用も少なく済ませることが出来、ランニングコストも圧倒的に低いことも魅力である。

とても便利なデジタルカメラ、デジタル画像ではあるが、およそ100年余りの保存性能と利用実績を誇る写真(フィルム、プリント)に比べて、デジタル画像はカメラ自体の進化(例えば画素数の向上など)による古い画像の質の低下に加えて、画像を管理し、活用するために必要なコンピューターも進化による陳腐化や、いつか故障の危機もおとずれるだろう。ハードディスクも、コンパクトディスクなどの記録媒体も、物理的な耐久性などから、100年も確かといえる保存性能は無い様である。 

ちなみに、私の場合、画像データーの管理は全てMacでおこなっているが、撮影した画像は作品ごとにDVD-ROM(工房保管用と顧客への提出用と2枚)に納め、Macには外付けのハードディスクをセットして、データーの複製を撮っている。デジタルデーターの保管には十分な注意が必要で、コンピューターやスマートフォンの中にデーターを入れっぱなしにしておく様なことはせず、こまめにほかの記録媒体に納めるなり、プリントしておくことをお勧めしている。

    

デジタルカメラを使う

フィルムカメラがカメラやレンズの性能、光源やフィルム、印画紙、プリント方法など、様々な条件にによって映した画像が変化するように、デジタルカメラもまた、機材の特性や光源によって、またプリンターなどの出力機によって写した画像が変化する。
デジタル画像はまた、コンピューターとphotoshopなどがあれば自由に加工出来、ちょっと映し損ねた画像も容易に修正出来るが、報道カメラマンや私達修復家の様に『事実』を記録する必要のある人たちには、修正や変造は許されないから、撮影時の画像を出来るだけ正確に写し取れる様に、撮影方法や機材の特性、取り扱い方もしっかりと理解しておく必要がある。

カメラは撮影目的、状況に応じてレンズの交換ができる一眼レフタイプが良い。レンズについては50ミリ程度の標準レンズと接写(マクロレンズ)の2本あれば良い。狭い部屋で大きな作品を撮る場合は、分割して撮影するか、広角レンズを用いる。ただし、広角レンズは画像にひずみが出るので、事前に確認しておく必要がある。出張先で撮影する場合、持っていく機材を減らしたい場合などは、24~100mm程度のズームレンズを1本持っていると便利。

撮影は正確で、できるだけ細かいな情報を得られるようにすることを基本にする。カメラ(レンズ)は絞りの設定次第で出来上がる画像の質や調子が変わる。簡単に、絞る(=f11,16,22と絞り数値が大きくなる)ほどレンズ内部の光の入る穴が小さくなるが、ピントの合う奥行きは深くなり、全体にシャープな画像が得られるようになる。反対に絞り数値を小さくする(f4,2.8,2と値が小さくなる)と光の入る穴が大きくなるが、ピントの合う奥行きは狭く浅くなり、ピントを合わせた周囲がぼんやりとした画像となる。
この性質をうまく利用して、人物を撮るような時などには絞りを開放近くに設定することで、背景を意図的にぼやけさせ、撮りたい人物に集中して焦点のあった画像を得る事も出来るが、物の細部をを明確に撮る必要のあるような時は、絞りの数値を大きく設定すると良い。ただし、絞り込むほどにフィルムにあたる光の量が少なくなってしまうので、暗い場所では遅いシャッタースピードでの撮影が余儀無くされるから、三脚とレリーズ(リモコン)が必要となる。また、あまり絞りの値を大きくすると回折現象(小絞りぼけ)という現象が出て、かえって画像がぼやけてしまう事があるから注意が必要。この現象は光の性質とカメラの機械的な性質(絞り羽の構造)が引き起こすそうで、カメラやレンズの構造や性能、撮影状況によって結果が異なってくるので、最適な絞り値を見つけるには、あらかじめテスト撮影をおこなう必要もある。

  

ホワイトバランス設定法

ホワイトバランスは、フィルムカメラには無かった機能である。ほとんどの人はこの機能を知らず、カメラ任せのフルオートモードで撮影していると思うが、すべてのカメラは撮影する際の光源の種類によって、出来上がる画像が黄色みを帯びたり、青みを帯びたるする。
フィルムカメラではフィルターなど使って調整していたが、デジタルカメラでは、カメラ自体に設定されたプログラムにより色調をコントロールしている。今のカメラはフルオートでもそれなりの画像が得られるが、白い物を確かに白く、鮮やかな原色も微妙な中間色も、より忠実に画像にするためには、マニュアル操作でホワイトバランスを設定すると良い。ホワイトバランスとは簡単に、ある光源下で、私達人間が捉えることの出来る標準的な白さを撮影出来る(撮影対象のより正確な色調が得られる)様にする事である。

画像で紹介したカメラは、以前撮影作業の中心に使っていたCanon EOS40D(2013年以降はEOS5DMarkⅡを中心に使用) 。私はほかにもPENTAX製カメラを利用するが、およその操作手順はどのメーカーも同じかと思う。ただし、操作方法はメーカーにより異なるので、取扱説明書をよく読んで試してほしい。


1.グレーカードを用意する

ホワイトバランスを設定するためには18%グレーカードを用意すると良い。簡単に、撮影時に利用する光源に基づいた自然光の中で私達が認識するような標準的で正しい『白』の基準をカメラに記憶させる。ホワイトボードなどで代用も可能。

グレーカード
2.グレーカードを撮影する

まずはこのグレーカードをいつも利用している光源下で撮影する(光源を替えることがあればその度にグレーカードを撮影する)。この時のモード設定はどこでもかまわない。グレーカードがモニター、ファインダー一杯になる様に写す。

グレーカードの画像を選択
3.撮影モードを変更する

先に撮影したグレーカードの画像情報を利用できる様にマニュアル撮影モード【M】もしくは絞り優先モード【Av】に設定する。

モードとは、簡単に撮影スタイル。モードの切り替えスイッチには、撮影者の意図に合わせた細かな変更が出来る応用撮影領域と、あらかじめ撮影スタイルがプログラムされているカメラ任せの設定領域(簡単撮影ゾーンなどと説明されている)がある。
ちなみに、A-DEPは自動深度優先、 Mはマニュアル、Av は絞り優先、Tvはシャッタースピード優先、P はプログラムモード/シャッターおよび絞り自動の意味で、ここまでのスイッチ領域が調整可能。女性の顔や山、チューリップのマークの位置では全てカメラまかせの撮影となる。(C1~3は撮影者のプログラムを記憶させる領域)

モードスイッチ
4.マニュアルホワイトバランスに設定する

カメラのメニューボタンを押して背面のモニターにメニューを表示。メニューを操作するスイッチでMWB(マニュアルホワイトバランス)に設定続いてMENU ボタンを押して、ホワイトバランスの項目を選び、画面で赤く囲まれたマークを選んで設定。

マニュアルホワイトバランス
5.撮影した情報を記憶させる

『menu』ボタンを押して『MWB選択』を設定、カメラについているモニターで先ほど撮影したグレーカードもう一度表示し、さらにこの画像を『選択』する。これで先ほど撮影した情報がカメラに記録され、ホワイトバランスの設定は終わり。私は最近絞り優先モードで撮影することが多いが、マニュアルモードで撮影する場合はフィルムカメラと同じ様にして露出計を使い、シャッタースピードと絞りを設定すると良い。


MWB選択

 

 

《サイトマップ》

Copyright ©YUSHODO All Rights Reserved.