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ハニカムボードを利用した額装幀

ハニカムボードとは

今回ご紹介するハニカムボード(パネル)と呼ばれる材料は、蜂の巣の様な紙製の構造(英語:honeycomb structure)材を厚紙で挟んだもの。内部に"小さな部屋で仕切られた空隙”を持った構造で、面積あたりの強度と軽さが大きなメリットとなる。最近は炭素繊維素材にその座を譲りつつあるが、同じ構造を持ったアルミ合金製の材料は、軽量で強度が高いことから航空機の翼などに使用されている。
同じ様に、内部に空隙を持った紙材料として、波状の板紙を平らな厚紙で挟んだ段ボール(英語:corrugated cardboard/ちなみに、段ボールの"ボール"は英語の"board"ボードが発音変化したものといわれる)があるが、ハニカムボードの中の構造物が垂直(面方向)方向に設置されている(効いている)のに対して、段ボールは構造材が水平方向に設置されている点が大きく異なる。段ボールも使い方次第では結構な強度を得られるため、最近では家具や建築材料としても利用されているが、もともと何かを包んだり、箱をつくったりしやすい様に、折ったり、曲げたりするのが容易い。双方とも見た目は同じ様な厚紙だが、一方のハニカムボードは垂直方向に構造材が効いているため、薄いものでも折ったり曲げたりはできない(つぶれて使い物にならなくなる)。

corrugateboard
段ボールは波状の厚紙を構造材として厚紙で挟んでいる ハニカムボードも同じ様に構造材を厚紙で挟んでいるが構造材の設置方向が異なる>
corrugateboard2 honeycomb2
段ボールの表面をめくったところ。構造材が表面厚紙と平行に(水平方向に)向いている ハニカムボードの表面をめくったところ。構造材が厚さ方向(垂直方向)に向いている。

資料を固定する材料としてのパネル

油彩画の様に、あらかじめ木枠にピンとキャンバスが張られた絵画などは、周囲にそのまま縁を付けるだけでも額装することができるが、薄い画用紙や絹織物に描かれることの多い東洋の書画や写真は、それを支えるための板やパネルを背面に固定してから額縁を取り付ける。パネル材にはいろいろな種類があって、近年ではベニヤ板などの集合材、集合材の背面に木枠を取り付けたパネル板、さらにその裏にもベニヤ板で覆った戸板状のパネル。片面に接着剤が塗布されていて、ポスターなどを貼ることができるポリスチレン樹脂製のボード(可逆性に乏しいので貴重な資料、作品への接着は避ける)。伝統的には襖や屏風の下骨の様に、木軸を格子状に四角く組んだものに和紙を貼り重ね、これを作品をのせる土台(パネル)にするもの(和風の額/扁額)どいろいろとがあるが、今回はこのパネル材にハニカムボードを使った。

canvas
woodboard
woodbone
木枠に張られたキャンバスはそのまま額縁を取り付けられる(裏側の写真)。 木枠にベニヤ板を接着したパネル(裏側の写真) 伝統的な工法として、杉などの角材を角材を格子状に組んだ骨組に和紙を貼り重ねたパネルは、和式の扁額などに利用される。


今回行った額装の概要

額に納めるものはヨーロッパのサッカーチームのユニフォーム(以下 資料 とする)。主要素材はポリエステルで、伸縮性に富んだもの。私の工房でもスポーツコレクションを扱うのは初めてであり、加えてお客様が額を持参されての異例でもあったが、希望により施工を承った。
お客様が持参されたのは、京都、(株)大地堂製の特注額、資料保護のために紫外線を99%吸収し、照明の反射を抑制する低反射機能を備えたアクリルガラス(Optium Tru Vue)が装着されていた。祐松堂ではこの資料の形状を整えて支える芯材の制作、資料を固定するパネル、ガラスを固定するガラス押さえを制作し、以上を額縁に装着して額装幀を完成するまでの作業をおこなった。
額装幀に際しては、所有者邸の展示場所、壁面構造等考慮して、できるだけ重量を増やさない方針で施工することとし、検討の結果、資料を固定するパネルに中性紙製のハニカムボードを、資料の芯材には貴重な資料を保存する容器にも用いられる専用の段ボール(上写真のグレー色の段ボール)を使用することとした。
工房に持ち込まれた額は縁の太さが(見付)が65mm、厚さ(見込)70mmと比較的太く、大きさは1120x875mm、装着済みのアクリルガラス込みで重さ約10kg余りあった。今回利用したハニカムボードは1032x790mm、厚さ7mmでおよそ1kg程と額重量のおよそ10分の1(ちなみに、6mm厚の同じ大きさのベニヤ板を計測したところ2kgを超えた)。これを特製のガラス押さえに組み込み、芯材を入れて形を整えた資料を固定し、額縁に納めて完成した状態の総重量がおよそ12kgとなった。

glasholder
panel
1.特注のガラス押さえ。溝の部分にハニカムボードを差し込む様にした。 2.ハニカムボードとガラス押さえを組み立てた状態。
messi
3. 完成後の額の背面の様子。2.のガラス押さえは額縁にはめ込んだのち、内側から額縁へ木ネジを使って固定してある。パネル背面には補強のため桟を二本装着した。 4.完成後の様子。所有者の希望により画像を一部加工した。


施工を終えて

今回工房へ持ち込まれた額は、アクリル製のガラス込みでおよそ10キロ近くあり、展示場所の壁面などに荷重制限があることから、すこしでも軽量化をはかるために紙製ハニカムボードを利用した。今回利用した材料は、うまく使えば縦横への(額の天地、左右方向への引っぱり強度=額縁が外側に変形するのも防げるし、取り扱いの際にも安全)強度も確保出来、額縁をしっかりと保持出来ることがわかった。この材料は、表裏に中性厚紙(pH7.5±0.5))を張り合わせたものとなっており、マット用紙として販売されている同じ材料を使った製品は、高い安全性が確認されていて、当工房でも絵画のマット装幀などとして利用の経験も長い。今回セットした資料は合成繊維製で、プロ選手の利用するスポーツウエアーであることからも、もともと高い耐候性のあるものと思われるが、デリケートで貴重な作品、資料の装幀にも安心して応用出来るだろう。
ハニカムボードの難点を挙げるとすれば、まず裁断が難しいこと。今回は7ミリ厚の物を利用したが、断面を垂直に、しかも正確に裁断するのには少々コツが必要だ。正確に裁断するためには、大きめの刃物と厚手の定規を使い、刃先がぶれぬように刃物と定規をしっかりと押さえ、少しずつ裁断するとよい。また、段ボール同様に、切断面があまりきれいではないので、裁断したまま利用する場合は、断面を何かで覆う様な工夫も必要かと思う。

 

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