祐松堂商標絵画と美術品の保存修復 祐 松 堂               

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◎絵画作品を観察をする ─ 光の応用 ─

私達が日常生活で利用する白熱灯や蛍光灯、LEDなどの照明機具の光りも、作品に当てる角度をかえたり、裏側から当てたりすることによって、より多くの情報を得ることができる。一方、紫外線や赤外線などに代表される不可視光線は、物質によって透過したり、振動させて反射し、特徴のある反応示す。様々な方法で、色々な種類の光を利用することで、過去の修復痕や通常は目に見えない損傷を読み取ることを可能にしてくれる。

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画像1.標準光線写真(写真撮影用デイライトランプ使用)

写真撮影に用いることの多い、デイライトタイプのライトで作品の両側およそ45度の角度から照射して写真撮影したもの(フィルムカメラ使用)。修復の前後に撮影記録をおこなう場合の最も標準的な撮影方法による写真画像。
この写真では、人物像の顔の前後に白濁(=ニスの変質)が見られ、額や首のあたりに斑点状の付着物が数カ所、後頭部あたりには絵の具の欠失があり、白っぽくなって見られる。

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画像2.斜光線写真(VTR撮影用ハロゲンランプ使用)

光軸の明確なハロゲン球などを使って、光を画面近く(浅い角度から)一方方向から当てると、画布や画用紙のうねり、変形具合を読み取ることができ、さらに表層の筆致(筆あし/絵の具の塗方)も観察することができる。
本作品は木枠から切り取られていたため(木枠は失われた状態であった)、キャンバスの歪み、波打ちが顕著で、絵の具の塗り厚が薄いためにキャンバスの織り目が表面に反影しているのがよくわかる。

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画像3.透過光線写真(蛍光灯/ライトボックス使用)

作品の裏面より光をあてると、当然ながら層の厚い部分や暗い色で塗られた部分は光を通さず、逆に傷ついて薄くなったところや、絵の具の欠けた部分はよく光を透す。


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画像4.紫外線写真(蛍光灯/ブラックライト使用 UV-A/エネルギーピーク 365nm付近)

紫外線を絵画に照射すると、絵の具の中に含まれる蛍光体に反応し、自然光下で見るのとは異なった反応を見ることができる。この写真では、人物の胸の前、後方の背景に黄~黄緑色の反応が見られ、ここにはニスが引かれていた。絵の具の欠失痕は下地層が露出して白く見え、汚損や付着物、過去の加筆、補彩などは黒く見える。紫外線はフォクシングなどと呼ばれる斑点状の変色、黴痕にも反応する。

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画像5.赤外線写真(SONY DCR-PC110使用のデジタル画像)

市販のデジタルビデオカメラに内蔵されている暗所撮影装置 ”Super NighiSoot”を使って撮影したもの。赤外線は可視光線よりも波長が長く、直進性が高いため、その効能として、物の内部に入り込んで熱を発生させることは良く知られているが、黒い色(炭など)によく反応する。通常光下で撮影した画像1.と見比べると、顔、髪の毛や衣類の細かなディティールは見られなくなり、画像1では見られなかった『全体の骨格』や『明暗による肉付け』のようなものが見て取れる。赤外線による観察では、デッサンや作者自身による修正、描き直しなどを発見できることがある。左画像はPhotoshopで調整した。

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画像6.修復処置後の状態

画面に付着していた塵埃など汚れを払拭し、変質したニスを除去。絵の具の欠損部の修理のうえ、新しく用意した木枠に張り込み直し、画面保護のため、あらためてニスを塗布した。


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